ウサギの膿瘍(主に根尖周囲膿瘍の病態について)
※ややグロい写真が出てくるので、苦手な方はご注意ください
今回は獣医師・飼い主そしてウサギ本人も含め全方位の悩みの種、膿瘍(のうよう)の病態についてです
そもそも膿瘍とは
化膿性炎症が生体組織内に限局した場合で崩壊した好中球に由来した分解酵素により中心部から融解して、膿を満たした空洞を形成した状態をいう。また、膿瘍形成には、持続的な激しい炎症性刺激が前提条件となっている。(Wikipediaより)
難しくてちょっと何言ってるかわかんないですね
要は、外傷などによる持続的な細菌感染が原因となって出来た膿の袋ということです
ウサギだけでなく犬猫にも膿瘍はできますが、多くの場合その治療は容易で、悩まされることは少ないです
(人にもできますが容易なのかは分からぬ)
ところが、ウサギの膿瘍は非常に治りにくいことが多いです
理由の1つに抗生物質が効きにくいというのが挙げられます
ウサギの膿は犬猫の物に比べて非常に濃く硬いです
この理由として
・膿汁から体組織へ水分が吸収されている為
・炎症部にフィブリン(血液凝固に関わる繊維状タンパク質)が激しく集まる為
と考えられており、膿瘍壁が非常に分厚くなるのもフィブリンの影響と考えられています
この分厚い壁により抗生物質が中まで届きにくいのです
あとはそもそもウサギに使える抗生物質が少ないのも理由の1つになるでしょう
また、ウサギという動物の体は微生物の感染に対して、それを排除するより共存しようとする傾向にあるという話もあります
エンセファリトゾーンなどの不顕性感染(感染は成立しているが症状が出ない状態)が多いのもこういった特徴からでしょうか
膿瘍は皮膚・内臓・関節・歯根・骨など体のどこにでもできる可能性があります
珍しいものだと、腹腔内に大量の微小膿瘍を形成していたケースにも遭遇したことがあります(原因不明)⇩
さて、最も発生が多く、治療に苦慮するのは顔周りです
顔周りが腫れていたら膿瘍であることが多いです
もちろん腫瘍(悪性腫瘍を癌や肉腫と呼ぶ)などの可能性もあるので、エコー検査・細胞診検査などでの鑑別は必要になります
エコーは発生段階により見え方が異なるため、それだけでは腫瘍との鑑別が難しいこともあります
顔周りに膿瘍が形成されるメカニズムは
不正咬合による歯根の異常摩耗や過長に伴う歯周間隙の拡大や歯槽骨の劣化が起き、
餌や口腔内常在菌が歯周から根尖に侵入し、感染・炎症が起きる為だと考えられています
難しいですね
要するに、歯並びが歪んでると、歯肉の隙間から細菌が入ってきて感染するということです
歯根が原因で形成される膿瘍を根尖周囲膿瘍と呼びます
では歯並びが歪んでるとはどういうことかを、レントゲン画像でご紹介します
⇩これが不揃いの子だと

歯根が揃ってないのがわかるかと思います、こういう歯根の子では現状問題なくても膿瘍の発生が警戒されます
健康診断時には歯のレントゲンを撮ってもらっても良いのかもしれませんね
横向けにウサギを寝かせて上からX線を照射し撮影しているので、左右の歯が重なってしまい完璧な評価ができる訳ではないですが、参考にはなります
(理想的にはCTで全ての歯根をチェックするのが望ましい)
歯根の炎症が慢性化すると、歯も変性して濃い白で写ってくるようになります
歯並びの歪みは生まれつきのこともありますし、ケージの柵などを噛み続けていたりすることで歪んでくることもあります
膿瘍の多くは無痛性で慢性的に進行していく為、気づいた時にはかなり大きくなっていることが多いです
そのまま放置しておくと、膿瘍は歯槽骨を破壊・吸収しながら軟部組織や皮下にも広がっていきます
最終的には顔や顎が変形するほど大きくなり、瘻管(トンネルのような管)を形成して複数の膿瘍が連結します
口腔内に排泄された膿により、誤嚥性肺炎・肺膿瘍を起こしたり、菌血症から肝炎・腎炎に進行することもあると言われています
下顎の膿瘍も厄介ですが、上顎から発生した膿瘍は更に厄介で、予後不良のことがあります
眼窩の裏に膿瘍が入り込んでしまうと、眼球が突出してきて瞼が閉じなくなってしまうこともあります
ここまで進行してしまうと、もう眼球はまともに機能しておらず、ただただ痛いだけになってしまうので、眼球摘出を摘出しその裏にある膿瘍への対処が必要になります
では膿瘍に対して具体的にどのように治療していくのか
それはまた別の記事でご紹介します
参照:ウサギの医学(緑書房)