ウサギの斜頸、眼振、ローリング…前庭障害について
斜頸(首が曲がる)
— 脱兎マン@白兎どうぶつ病院 25年春開業 (@dattman2024) December 28, 2023
ローリング(斜頸が酷くなり起き上がれなくなる)
眼振(眼球が上下もしくは左右に往復している)
これらの症状を前庭障害といいます
原因は細菌性中内耳炎・エンセファリトゾーン・腫瘍など多岐に渡りますが、前庭障害が出たら遅くともその日中に病院に行って下さい#ウサギ #うさぎ pic.twitter.com/uPxFZeWJag
今回は前庭障害についてです
そもそも前庭って何やねんという話ですが
前庭(ぜんてい、英語: vestibule、ドイツ語: Vorhof、ラテン語: vestibulum)は、内耳にあり重力と直線加速度を司る感覚器官。前庭器官の名でも知られる。
前下内側は蝸牛と、後上外側は三半規管と接する内耳の中央部にある器官である。三半規管同様、内部はリンパ液で満たされており、三半規管や蝸牛に通じている。内壁には卵形嚢と球形嚢という2つの耳石器(後述)が、中耳側には前庭窓と蝸牛窓がある。
耳石器の数は、哺乳類は卵形嚢と球形嚢の2つだけだが、魚類、両生類、爬虫類、鳥類は更に3つ目の耳石器として壷嚢を持っている。これらの耳石器の内部には炭酸カルシウムでできた平衡砂(耳石)があり、感覚細胞に繋がっている。これが重力や直線加速度によって傾くことで前庭神経から脳に刺激が送られる。

Wikipediaより
何のこっちゃという感じですね
要は耳の奥の方にある平衡感覚を司る器官のことです
ここに障害が起きることで
・首が曲がってしまう(斜頸)
・首が曲がりすぎて起き上がれなくなる(ローリング)
・同じ方向にぐるぐる回ってしまう(旋回運動)
・眼球がいったりきたりを繰り返す(眼振)
これらの症状が見られるようになるわけです
前庭障害の原因は
・細菌性中内耳炎
・エンセファリトゾーン:Ez(従来は寄生虫とされてきたが近年は真菌類に分類されている)
・腫瘍(リンパ腫など)
・感染性髄膜脳炎
など多岐に渡ります
前庭障害が発生した時に飼い主さんにやっておいて頂きたいこと
・遅くとも発生から24時間中に病院に行く
対応が早いほど改善されやすい傾向にある
ただし、1分1秒を争うものではないことが多い為、夜に症状が見られたとしても翌朝かかりつけに行けばOKな事が多い
・ケージにマットを敷き、周りを丸めたバスタオルなどで囲う
特にローリングになってしまった時、ウサギ自身が混乱して暴れて、二次的な怪我(骨折など)を起こすことがあるため

・眼振が起きていたらどの方向に揺れているか確認する
眼振が起きている方向で、病変部位をある程度絞れることがある

さて、ではここから前庭障害の原因となることが多い細菌性中内耳炎とエンセファリトゾーンについて紹介します
*細菌性中内耳炎
ウサギでは発生が多い疾患で、特にロップイヤーで多いとされています
原因菌としてはPasteurella multocidaが最も多いとされ、
他には
Bordetella bronchiseptica
Staphylococcus spp.(ブドウ球菌)
Escherichia coli (大腸菌)
Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)
などが挙げられます
中耳炎のウサギの約80%が呼吸器症状を伴っていたことから、鼻炎や上部気道炎などからの耳管を介しての感染が主たる経路と考えられていますが、それを否定する報告もあります
犬猫で認められる中耳の腫瘍やポリープ、真珠腫などはウサギでの報告はありません
特発性(原因がわからない)前庭疾患は確認されています
外耳炎と中内耳炎は関連しないことが多く、外耳道が綺麗でも中耳・内耳の異常は否定できません
逆に、以下の写真のように外耳道に排膿していたら中内耳炎を強く示唆します

中耳炎のみでは無症状か、耳を気にして振ったり掻いたりする程度で、身体検査のみでは診断が難しいです

↑このように片耳だけ倒してる時も、中耳炎の可能性があります(耳を振るなどの症状が他に無ければ病的じゃない可能性が高い)
内耳にまで炎症が及ぶと前庭障害を起こし、より重度な場合は内耳炎から頭蓋内へ感染が波及し、脳炎も発症します
このような耳原性感染の頭蓋内への波及は人や犬猫に比べてウサギでは発生が多いとされています
前庭障害以外では、顔面神経が障害を受けると顔面の左右非対称や、流涎・食べ物を口からこぼすなどの
症状がでることもあります

↑顔の左側がやや吊り上がっている
細菌性中内耳炎の診断
レントゲンによって鼓室胞の評価をします
鼓室胞とは鼓膜の奥(中耳)に存在する、空気で満たされた空間のことです

↑赤丸で囲んだのが正常な鼓室胞、左右一対ある
中耳炎が進行すると、レントゲン画像上で鼓室胞が白くモヤモヤしてきたり、分厚くなったり、変形・融解像が見られるようになります

↑赤が正常の鼓室胞。青で囲った側は形が崩れている
レントゲンは多くの病院にある検査機器ですし、検査費用も高くないので実施しやすい検査ですが、中耳炎の初期や病変が軽度の場合はレントゲン上では病変が映らないことが多いです
その点、CTではより詳細な検査ができますが、
検査費用が高い・CTがある病院が限られているという欠点があります
また、前庭障害が出た時点で試験的治療を始めることが多いので、治療方針が大きく変わらないという点もあります(理想的にはもちろんCT撮って病態の全容を把握できた方が良い)
細菌性中内耳炎の治療
治療の主軸は細菌をやっつけるための抗生剤です
神経組織への移行性を考慮して
エンロフロキサシン(10mg/kg:BID)
アジスロマイシン(15-30mg/kg:SID)
などが使われます
(個人的にはエンロフロキサシンはSIDで充分でないかって気もします)
炎症を引かせる目的で、非ステロイド系抗炎症薬のメロキシカムや低用量のステロイド(プレドニゾロン:0.25-0.5mg/kg SID)なども使われることがあります
BID:1日2回投与 SID:1日1回投与
*エンセファリトゾーン症(Ez)
Ezは主に中枢神経、腎臓や眼の水晶体の細胞内に寄生します
神経症状では、斜頸やローリングなどの前庭症状が最も多く、四肢や両後肢の不全麻痺を起こすこともあります
水晶体に寄生すると若年性の白内障を起こしたり、眼内膿瘍を形成することもあります


↑眼内膿瘍
腎臓に寄生すると腎不全を起こし、程度によっては継続的な点滴治療は必要になるかもしれません
Ezの確定診断は死後の病理組織検査のみになります、そのため生前の確定診断は出来ません
抗体検査は参考にはなりますが、抗体陽性だからといって現在起きている前庭障害がEzに寄るものなのかは確定が出来ず、症状と抗体価を参考に暫定的に診断を下すことになります
エンセファリトゾーンの生活環・病態・診断(抗体検査の詳細)・治療について書き始めるとめちゃくちゃ長くなるので、別の記事でまとめたいと思います🙏!
その他、細菌性中内耳炎やEz以外に前庭障害を起こし得る疾患である腫瘍や髄膜脳炎などの診断にはMRI検査が必要になりますが、麻酔が必要になるので、状態が悪化したウサギでは実施が難しいです
前庭障害に対する実際の対応
以上より、前庭障害が起きたとなっても、原因をバシッと診断できることはあまり多くありません
そのため、前庭障害の原因がハッキリしない時は、特に原因になることの多い中内耳炎とEzのどちらに対しても治療を行います
中内耳炎に対しては抗生剤を、Ezに関してはフェンベンダゾールという駆虫薬を投与します
使用に際して議論になるのが、ステロイドの使用です
ステロイドは炎症を抑える作用がある反面、免疫抑制作用もあるので、特にEzでは状態をより悪化させてしまう可能性もあると言われています
使うにしても低用量の短期投与が良いのかもしれません
ただし、髄膜脳炎ではステロイドを使用すべきなので、明らかな中内耳炎があり垂直方向の眼振が出ていて中枢神経障害が疑われる時は積極的に使うべきでしょう
前庭障害のウサギの飼い主さんがやった方が良い事
・給水器を皿型のものにする
斜頸の子では程度によるがノズル型のものでは飲めない場合がある

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・斜頸、ローリングの子では床を吸水マットに変更し、頻繁に取り替える
特にローリングになってしまい、自立不可の子では生涯に渡る介護が必要になります
必ず同じ側を下にしたがる傾向がるため、骨の出っ張った所が床ずれを起こしたり、糞尿の処理が自分で出来なくなり皮膚炎を起こします
このようなマットはオシッコをかなり吸ってくれるので、尿焼けによる皮膚炎を緩和してくれます
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牧草が入り込んでしまって洗濯が大変なのが欠点です😇
ローリングの子の介護についてはまた別記事で詳しく纏められたらと思います