うさぎのタマが片方だけ大きい?考えられる原因と病気について

「うちの子のタマが片方だけ大きくなってる気がするんです」

オスうさぎの飼い主さんから、こういったご相談をいただくことがあります。メスうさぎの子宮疾患ほど発生率は高くないものの、オスうさぎの精巣・陰嚢周りにも、見落とすと命に関わる病気が存在します。

当院でも開業以来、毎月1〜2件は精巣関連の手術を行っており、決して珍しい話ではありません。本記事ではまず、最も頻度の高い「精巣腫瘍」と、見た目がそっくりで鑑別が重要な「陰嚢ヘルニア」について、当院での症例を交えながら解説します。(その他の陰嚢周りの病気については記事後半で取り上げます)

1. 見た目だけでは判断が難しい

「タマが片方だけ大きい気がする」と来院された場合、まず考えるべき2つの代表的な病気があります。

  • ① 精巣自体が腫れている(精巣腫瘍 など)
  • ② 陰嚢の中に他の臓器・脂肪が入り込んでいる(陰嚢ヘルニア)

両者は見た目だけでは区別がつかないことが多く、触診・画像検査(レントゲン、エコー)を組み合わせて評価します。とりわけ重要な鑑別ポイントが、「押すと引っ込むかどうか」です。

腫瘍であれば押しても引っ込みませんが、陰嚢ヘルニアであれば内容物が腹腔内へと戻っていきます。これだけで確定診断にはなりませんが、最初の見当をつける上で非常に重要な情報になります。

2. 精巣腫瘍 — 「片方だけ大きい」は要注意

2-1. うさぎの精巣腫瘍はそれなりに多い

メスうさぎの子宮疾患ほどではないものの、精巣腫瘍は決して稀な病気ではありません。現場の感覚としては「未去勢の中高齢オスでは普通に出会う病気」です。

私自身、以前はそこまで去勢を勧めてはなかったですが、最近は「もう少し強めに去勢を勧めた方が良いかもしれない」と考えるようになっています。

【症例】精巣腫瘍。片方のみが顕著に腫大している。

2-2. うさぎの精巣腫瘍、3つのタイプ

うさぎの精巣腫瘍は、病理検査で見るとおおむね以下の3つのいずれかであることがほとんどです。

  • ライディッヒ細胞腫(間細胞腫):基本的には良性、稀に悪性挙動を示し転移する。最も多い
  • セルトリ細胞腫:基本的には良性、稀に悪性挙動を示し転移する。
  • セミノーマ(精上皮腫):挙動は不明確。近傍リンパ節への転移報告あり

いずれにせよ、精巣腫瘍自体が命に関わることは多くはありません。ただ、腫大した精巣が擦れて自壊したり、糞尿汚れが付きやすくなることはあります。

【症例】顕著に腫大し、表面が自壊した精巣腫瘍。

2-3. 手術 — 「陰嚢ごと切除」する場合がある

通常の去勢手術では、陰嚢を残して中の精巣だけを摘出します。しかし精巣腫瘍では、陰嚢ごと切除することが多いです。理由は主に2つあります。

  • ① 腫瘍によって陰嚢の皮膚も伸びてしまっており、皮膚が余ってオシッコが引っかかる
  • ②腫瘍が自壊している場合、陰嚢皮膚も含めて切除した方が術後管理が楽

【症例】精巣腫瘍に対し、陰嚢ごと切除した症例。

2-4. 摘出後は必ず病理検査へ

見た目で精巣腫瘍の鑑別は出来ず、最終的な診断と予後の見通しは病理検査でしか得られません

特に転移の可能性がある腫瘍だった場合、術後のフォロー(定期的な胸部レントゲンなど)の計画が変わってきます。当院では摘出した組織は基本的にすべて外部の病理検査機関に依頼しています。

3. 陰嚢ヘルニア — 「腫瘍そっくり」だけど別物

3-1. 鑑別ポイントは「押すと引っ込む」

精巣腫瘍と並んで、片側の陰嚢腫大でよく見られるのが陰嚢ヘルニアです。これは、鼠径管の隙間から、腹腔内の脂肪や臓器が陰嚢の中に逸脱してくる状態を指します。

見た目は精巣腫瘍とよく似ていますが、最大の違いは押すと引っ込んでいくことです。これは中身が腫瘍ではなく、腹腔内に戻せる脂肪や臓器であることを意味します。飼い主さんがおうちで気付くきっかけになることもあるので、「片側だけ膨らんでいる時は、軽く押してみる」と覚えておくと役立ちます。

3-2. 脂肪だけなら無症状、膀胱が出るとリスクあり

陰嚢ヘルニアの内容物が脂肪だけであれば、症状が出ることはほとんどありません。経過観察となるケースも多いです。

一方、注意が必要なのは膀胱が陰嚢内に逸脱してしまった場合です。膀胱が腹腔内よりも下がった位置にあると尿を出し辛くなるため濃縮され、陰嚢内での結石形成につながります。結石が大きくなれば排尿障害を起こし、命に関わる尿道閉塞に至る可能性もあります。

「血尿で来院 → 陰嚢内の膀胱に結石」の症例

実際に当院でも、時々血尿が出るという主訴で来院されたうさぎで、陰嚢内に逸脱した膀胱の中に結石ができていた、というケースを経験しています。

3-3. 手術 — 整復 + 去勢 + 鼠径管の閉鎖

膀胱の逸脱や、繰り返す症状がある場合は手術適応となります。内容物を腹腔内に戻し、再発を防ぐために鼠径管を閉鎖します。多くの場合、同時に去勢手術も行います。

脂肪のみの逸脱で症状もない場合は、必ずしも手術にはせず、定期的なチェックを行うこともあります。一方で「いずれ膀胱が出てくる可能性」も否定はできないため、ヘルニアが疑われた時点で一度ご相談いただくのが安心です。

【症例】陰嚢ヘルニアのオペ。陰嚢を切開すると、腹腔内から脱出してきた膀胱が見られた

4. その他、知っておきたい陰嚢周りの疾患

ここまで取り上げた精巣腫瘍と陰嚢ヘルニアが頻度としては大半を占めますが、陰嚢周りには他にも知っておきたい疾患があります。

4-1. 潜在精巣(停留精巣)

うさぎのオスでは、生後3〜4ヶ月齢までに精巣が腹腔内から陰嚢に降りてきます。この時期を過ぎても陰嚢内に降りてこず、腹腔内や皮下に留まっている状態を潜在精巣(停留精巣)と呼びます。片側のみで起きることが多いです。

腫瘍化リスクについては書籍によって見解が分かれており、『エキゾチック臨床』では「腫瘍化しやすい」、『ウサギの医学』では「腫瘍化は稀」とされています。当院では、見つけた場合は外科的に摘出する方針を取っています。

【症例】潜在精巣。陰嚢も形成されていない

【症例】腹腔内の膀胱近くに留まっていた潜在精巣。開腹して摘出した

4-2. 陰嚢メラノーマ — 黒いシミは様子見しない

頻度は高くないものの、知っておいてほしいのが陰嚢のメラノーマ(悪性黒色腫)です。発生部位は耳介・眼瞼・頭部・四肢など多岐にわたりますが、当院で経験した症例はすべて陰嚢でした。

メラノーマは経過が早く、肺などへ転移するリスクが高い予後不良な腫瘍ですが、ごく早期に切除できれば再発・転移なく経過するケースもあります。「ホクロかな?」で様子見せず、陰嚢に黒いシミやできものを見つけたら早めにご相談ください。

4-3. 陰嚢膿疱 — これは病気ではありません

オスうさぎの陰嚢に、ニキビのような小さい出来物が複数できていることがあります。これは陰嚢膿疱と呼ばれるもので、基本的に病的なものではなく、治療の必要もありません。二次感染や重度の炎症がなければ放っておいて大丈夫です。

4-4. うさぎの精巣はもともと出入りする — 鑑別の落とし穴

最後に、診察や日常観察での「落とし穴」をひとつ。うさぎの精巣は、正常な状態でも陰嚢と腹腔内を行き来します。驚いたり寒かったりすると、精巣がスッと腹腔内に上がってしまうことがあり、「触ったら片方しかない…!」とご相談いただくこともしばしばあります。

そのため、「精巣が触れない=潜在精巣」とは限らず、慎重な見極めが必要です。

5. 予防 

5-1. 去勢手術を前向きに検討する

去勢手術には以下のようなメリットがあります。

  • 精巣腫瘍を完全に予防できる
  • 陰嚢ヘルニアの予防(同時に鼠径管も塞ぐ)
  • スプレー行動・攻撃性・マウンティングの改善
  • 潜在精巣の腫瘍化リスクの解消

一方で、去勢の有無による寿命の差は明確ではありません。「寿命を延ばすため」というよりは、「将来出てくる可能性のある病気を確実に減らすため」の選択肢として、若く健康なうちに検討していただくのが良いと考えています。

5-2. 普段から「タマのチェック」を

精巣腫瘍も陰嚢ヘルニアも陰嚢メラノーマも、初期は無症状で進行します。だからこそ、飼い主さんによる日々の観察が早期発見の大きな力になります。

  • 左右のタマの大きさに差はないか
  • 片方だけ硬くなっていないか
  • 黒いシミ・できものが現れていないか
  • 陰嚢の皮膚が赤くなっていたり、自壊していないか
  • お尻周りの汚れが急に増えていないか

仲良くスキンシップを取りながらの観察で十分です。月に一度くらい、「タマのチェックの日」を作っていただけると安心です。

特にメラノーマのように経過が早い腫瘍では、「気付いた1〜2週間の差」が予後を大きく左右することもあります。「ちょっと様子を見てから…」が手遅れの原因にならないよう、早めの受診をお願いします

5-3. 定期検診で早期発見

デリケートな場所故に、なかなかタマを見れないこともあると思います。その場合、数ヶ月に一度くらい専門店や病院に連れて行き、爪切りがてら見てもらうと良いでしょう。当院には、爪切りだけで連れてきて頂いても大丈夫です。

最後に

メスうさぎの子宮疾患ほど発生率が高いわけではないものの、オスうさぎにも見落とすと命に関わる病気があります。早期発見できれば選べる治療の幅が広がりますので、「いつもとちょっと違うかも」と感じたら、自己判断で様子を見ず、お気軽にご相談ください。

【参考】

・エキゾチック臨床 vol.20(学窓社)/ウサギの医学(緑書房)

・本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の症例の診断・治療方針は実際の診察の上でご相談ください。